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6か月調査が論文になりました
ステロイドを使用しないアトピー性皮膚炎の経過調査の結果報告
2017年4月8日、毎日新聞くらしナビに、6か月調査を載せていただきました。
ステロイドを使わない治療でも、良くなるということを、たくさんの方に知っていただきたいと思っています。
そして、使いたくないという患者に対して、使わない治療を選ぶ権利を認めてほしいと思っています。
※画像クリックで拡大されます
【毎日新聞社提供】
6か月間アトピー性皮膚炎患者にステロイド外用剤を用いずに経過観察した前向き研究
深谷元継、佐藤健二、山田貴博、佐藤美津子、藤澤重樹、水口聡子、木俣肇、堂園晴彦
【要旨】
ステロイド外用剤(TCS)はアトピー性皮膚炎(AD)の主座を占める治療とみなされている。ADは自然治癒傾向を有するので、AD管理におけるTCSの長期的有効性は、TCSを用いないAD患者と比較して判断されるべきである。
しかしながら、TCSを用いずにAD患者の長期経過をみた報告は非常に少ない。我々は6か月間TCSを用いなかった場合の臨床的予後を評価するために、前向き多施設コホート研究を行った。そしてその結果をステロイドを6か月間使用した古江らの先行研究の結果と比較した。
我々の患者の臨床的改善度は、古江らの研究における結果に匹敵するものであった。TCSを用いても用いなくても予想される長期的予後が同じである以上、TCSを拒否するAD患者がいた場合に、その意向を受け入れて医師が診ることは合理的であるといえる。
【はじめに】
アトピー性皮膚炎(AD)は、自然治癒傾向をもっている。Chungらは、生後1年までの間にADと診断された597人の小児の後ろ向き研究によって、寛解するまでの期間は、平均29.6か月であったと報告した(1)。
この自然治癒傾向は、ADの長期的予後評価を複雑にしている。IyengarらはOmalizumabの小児への有効性確認のために、二重盲検法を行い、プラセボとしてTCSを6か月間使用しない患者群を設定したが、研究に組み込まれた患児たちはいずれも研究開始時には標準的治療では対応できないほど重症であったにも関わらず、プラセボ群の患者たちは、6か月前後で統計的に有意に改善していた(2)。
短期的(ほとんどの場合数日から数週)には、TCSはADの皮膚症状を改善することが確認されている(3-5)。近年、週二回TCSを外用するプロアクティブ療法がADの悪化を防ぎ(6-8)、患者の経済的負担を減らすことが報告されている(9)。しかしながら、このプロアクティブ療法は、コントロール不良のAD患者が除外された、数週間のTCS使用によって皮膚炎が抑えられた患者のみについての研究結果である。
古江らは6か月間TCSを用いた古典的治療による治療効果を研究した。そして、「コントロール不良」の率は乳幼児で7%、小児で19%、思春期成人において19%であったと報告した(10)。
ADが自然治癒傾向を有し、長期的にTCSで良くならない患者がいることから、著者らは6か月間TCSを用いない場合のAD患者の臨床的重症度がどうなるのかを調査することとした。我々はADの自然経過に関する本研究は、TCSの副作用が議論され(12)、ADの新しい治療が研究されている(2)現在において、非常に重要な意味を持つと考えられる。
【対象と方法】
我々の前向き多施設コホート研究は、大学病院医療情報ネットワークに登録され(UMIN000015781)、大隈病院倫理委員会(名古屋、2014 11 27-1)で承認された。患者登録は2015年1月から6月まで行われた。患者はアトピー性皮膚炎診療ガイドラインの診断基準を満たすものとした(11)。患者はTCS(および特殊な治療、カルシニューリン阻害薬を含む)を6か月間行わないように指示された。経口抗ヒスタミン剤や保湿剤の使用は認められた。患者はいつでも望むときに研究から離脱してTCS使用を再開できることとした。
我々の主な目的は、我々の患者たちとTCSを使用した古江らの研究とを比較することであったので、年齢区分や重症度分類は古江らの論文に従った。すなわち、「乳幼児」は0-1歳、「小児」は2-12歳、「思春期および成人」は≧13歳である。全般的な臨床的重症度は、「超重症」「重症」「中程度」「軽症」に区分した。
これらの分類の定義は以下のようである。「超重症」:皮膚炎の面積が全体表の30%以上、「重症」:皮膚炎の面積が全体表の10―30%、「中程度」:皮膚炎の面積が全体表の10%未満、「軽症」:乾燥肌、落屑、軽い紅斑。これらに加えて我々の研究では、「完全寛解」:皮膚症状を認めない、をも採用した。
以下のデータが最初の診察時に個々の患者から収集された。年齢、性別、生まれてから調査開始時までのTCS使用期間(月数)、直前のTCS不使用期間(月数)、直前6か月間のTCS使用総量(g)、保湿剤・石鹸・ボディシャンプーの使用頻度(使っていない-0、時々使う-1、毎日使う-2)。
医師は調査開始時と、6か月後にもう一度、患者を診察し、痒疹(難治性のサインと考えられる)・TCSの副作用(すなわち、頬の毛細血管拡張、肘窩または膝窩の皮膚萎縮)の有無を確認した。6か月の間に単純ヘルペス・カポジ水痘様発疹症・伝染性軟属腫・細菌感染に罹患したかどうかも記録した。
【結果】
357人の患者が研究に参加し、300人が完遂した。内訳は乳幼児118人(平均年齢10 ± 5か月:男66、女52)、小児80人(平均年齢4± 2年:男51、女29)、思春期および成人102人(平均年齢29 ± 11年:男46、女56)であった。
表1に年齢別3カテゴリーに分けた治療前後の重症度をまとめた。背景黄色は、古江らの定義した「コントロール良好」「コントロール不良」の区分のうち「コントロール不良」ADに相当する部分である。赤枠で囲んだ部分は、非「改善」である。我々の調査では、乳幼児の12% (118人中14人)、小児の9% (80人中7人)、思春期および成人の30% (102人中31 人)が「コントロール不良群」すなわち、「超重症」、「重症」、または悪化を経験していた。
我々は調査を完遂しなかった57人の患者について、脱落理由と現在の重症度とを確認しようと試みた。14人が脱落理由として個人的な理由を挙げ、臨床的には良くなっていると答えた。7人は悪化したため6か月後の再診に行く気が起きなかったと答えた。2人がTCSを再開した。3人は喘息のためステロイドを吸入した。残りの31人とは連絡が取れなかった。表2に脱落した患者たちの重症度をまとめた。調査開始時の重症度に関して、完遂した患者たちとの差は無さそうだった。
「コントロール良好」と「コントロール不良」のAD患者の履歴について比較した結果が表3である。TCS外用期間の平均値は、「コントロール不良」のほうが「コントロール良好」よりも有意に長かった(128.3 か月と 46.7か月)。他の要因(直前のTCS不試用期間、直前6か月間のTCS使用総量、保湿剤・石鹸・ボディシャンプーの使用頻度)については統計学的有意差はなかった。
「コントロール良好」と「コントロール不良」のAD患者の診察結果についてまとめたのが表4である。頬の毛細血管拡張、肘窩または膝窩の皮膚萎縮があった患者は、無かった患者よりも「コントロール不良」となる率が有意に高かった。痒疹の有無は「コントロール不良」となるリスクを上げるものではなかった。
TCS外用歴と診察結果とを比較したのが表5である。痒疹を生じていた患者はTCS 外用歴が有意に長かった。肘窩または膝窩の皮膚萎縮があった患者もまた、TCS 外用歴が有意に長かった。痒疹を生じていた患者は直前6か月間のTCS使用総量が有意に多かった。
調査期間中の単純ヘルペス・カポジ水痘様発疹症・伝染性軟属腫・細菌感染の罹患率を表5に示した。これらの感染症の罹患率はTCSを使用した患者における過去の調査結果よりも高かった。感染症の罹患率は、特に「コントロール不良」の乳幼児や小児で高かった。
【考察】
我々は今回の結果を6か月間TCSを使用してAD患者を治療した古江らの結果と比較した。伝統的なTCS 治療による古江らの結果では、「コントロール不良」は、乳幼児の7%(206人中15人)、小児の10%(531人中51人)、思春期およ び成人の19%(503人中98 人)であった(表1を参照)。
我々の患者のほうが「コントロール不良」の比率は高く、とくに思春期成人において著明で あった。すなわち我々の結果では「コントロール不良」は、乳幼児の12%(118人中14人)、小児の9%(80人中7人)、思春期および成人の30% (102人中31人)であった。
二つの研究の「超重症」「重症」「中等症」「軽症」の割合を比較してみると、我々の調査においては、思春期成人における「超重症」の比率が高かった。我々の調査における「超重症」の割合は63.7%(102人中65人)で、古江らのは6%(505人中31人)であった。
思春期成人における「重症」の割合は、我々の患者では23.5%(104人中24人)、古江らの患者では29%(505人中147人)であった。我々の思春期成人患者において「コントロール不良」が多かったのは、我々の患者には「超重症」が多かったからと考えられた。
そこで、二つの調査における重症度の差を考えて、我々は重症度の各群それぞれにおいて6か月後の結果を比較した。すると「超重症」患者群においては、TCSを使用した患者群よりも使用しなかった患者群のほうが改善率が高かった。
また、我々の調査においては、6か月後の非「改善」率は、乳幼児の25%(118人中30人)、小児の48%(80人中38人)、思春期および成人の20%(102人中20人)であった。古江らの調査では、乳幼児の64%(206人中132人)、小児の60%(531人中318人)、思春期および成人の63%(503人中317人)が非「改善」であった。
このことは、すべての年齢カテゴリーにおいて、TCS使用患者のほうがTCS不使用患者よりも非「改善」率が高いということを示している。我々の調査と古江らの調査は、異なる時期に異なる場所で行われたので、データの比較は慎重であらねばならない。とにかく、我々はかなりの患者がTCSを用いなくても6か月後には改善していることを示すことができた。我々の調査における「改善」率は、乳幼児の75%(118人中88人)、小児の52%(80人中42人)、思春期および成人の80%(102人中82人)であった。乳幼児の24%(118人中28人)が6か月後に皮疹消失(すなわち完全寛解)していることは特記に値する。
「コントロール良好」と「コントロール不良」のTCS使用期間の差については、二つの解釈が可能である。TCS使用期間はAD罹病期間に一致する(患者が「ステロイド忌避」でなければの話だが)。AD罹病期間が長いほど6か月後の改善率が低くなるというのは不思議な話ではない。
もう一つの解釈は、TCSの長期使用はADを難治化させるという可能性だ。多くの皮膚科医にとって、この解釈はばかげたものに思えるだろう。しかしながら、この可能性を支持する文献はある。ステロイド依存(12-14)、またはred burning skin syndrome(15)と呼ばれる病態がTCS長期使用の後に生じることがあると、長年議論されている。
皮膚はコルチゾールを産生しており、TCSの長期連用は、ちょうどステロイドの全身投与が副腎のコルチゾール産生を抑制するように、皮膚のコルチゾール産生を抑える。皮膚のコルチゾール産生が阻害されると、外界からのアレルゲンや刺激に対する炎症反応は、持続的なTCS供給がなければ治まらなくなり、皮膚炎は難治化する。TCSを長期連用した表皮では、コルチゾール染色において部分的な欠損を生じているという報告がある(16)。
頬部の毛細血管拡張と肘窩または膝窩の皮膚萎縮が、「コントロール不良」AD患者と関係しているという結果もまた、TCSの副作用を生じている患者は難治性であるということを示している。痒疹・頬部の毛細血管拡張・肘窩または膝窩の皮膚萎縮を有する患者はTCS外用期間が長いという結果は、これらの臨床所見がTCSの長期連用や大量使用と関係があるということを示している。
6か月の間の二次感染発症率の高さは、すべての患者が迅速に治療され回復したとはいえ、ゆゆしい問題である。もしTCSを使用しないAD患者が医療機関の受診を諦めて、そのあとに感染症を起こしたら、敗血症や脱水といった致死的なリスクにさらされる。
このことは、医師がTCSを拒否する患者を診たがらないことを考えると、深刻な問題である。いわゆる「ステロイド忌避」患者は皮膚科において話題となっている(17,18)。AD診療のガイドラインは多いが、TCSを使用しない患者の診療ガイドラインは存在しない(11,19-21)。
TCSを使用するAD患者の長期予後が、不使用の患者よりも良いとは言えず、TCSを使用しなくてもかなりの患者が改善するという証拠がある以上、TCSを拒否する患者を診療することは受け入れられなくてはならない。
さらに、これらの患者たちがステロイド依存に陥っているとしたら、その症状はTCSを中止しない限り良くならない。もし医師たちがこれらの患者の診療を拒否すれば、彼らは医療の外に置かれ、二次感染による不幸な結果を招くリスクが高まる(22)。
このことから、我々はAD患者を診療する医師たちは、十分な知識のある患者がそれを選択した場合には、TCS不使用で診療する門戸を開くべきと考える。そのような場合には、医師は「経過を観察しながら自然治癒を待つ」というスタンスで、感染症などの合併症管理をすることになる。
著者らは、この論文に寄せられた一人の査読者からのコメントに反論したい。そのコメントとは「この論文には治療のゴールに関する誤解がある。強い痒みや掻き破られた皮膚や不眠の管理はどうするのか?たとえステロイド忌避の患者であっても、とくに重症患者の場合には、ただ『経過を観察しながら自然治癒を待つ』という姿勢は倫理に反する。確かに皮膚炎の悪化は時間がたてば治まるだろう。しかしそれを短縮しようとなぜ努めないのか?」というものである。
この意見は、現在、皮膚科医としてもっとも普通なものだろう。もしもTCS長期連用によるステロイド依存というリスクが無ければ、この査読者の意見はまったく正しい。しかし、図1に示したような患者を、TCSを使用せずに「経過を観察しながら自然治癒を待つ」ことは、本当に「非倫理的」なのだろうか?
この赤ちゃんの親はTCS使用を拒否して、その結果、ある医師から診療を断られた。両親は赤ちゃんを虐待(ネグレクト)しているとまで言われた。私たちは、医療ネグレクトは、このような患者の診療を拒否する医師たちによってこそ、犯されているのだと考える。
【文献】
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「アトピー性皮膚炎にステロイド外用剤を用いない治療における臨床経過観察」研究へのご協力のお願い
アトピー性皮膚炎の治療において、多くの問題点があるにもかかわらず、ステロイド外用剤によるいわゆる標準治療が主座を占めるとされています。
その一方でアトピー性皮膚炎には自然治癒傾向があることも良く知られています。
またステロイド外用剤の副作用を心配して、あるいは副作用を生じたために、これを用いない治療を希望する患者さんも多数存在します。
アトピー性皮膚炎を臨床医が治療するにあたって、ステロイド外用剤は必須のものでしょうか?
私たちはこれを検証するために、ステロイド外用剤を使用しないでアトピー性皮膚炎を治療する患者を登録し、6か月毎に経過観察することにいたしました。どうか本研究にご協力ください。
ご登録いただくと、担当医が、患者さんの性別・年齢・重症度などのデータを集計担当者へ送ります。お願いしたい内容は臨床情報の提供の御了解です。
このほかに通常の診察以外の患者さんの負担はありません。また、途中でステロイド外用剤による治療を希望された場合には、その時点で終了となります。
途中で終了するかどうかは、まったく患者さんの自由意思によります。研究にご参加頂くことによって、ステロイド外用剤の不使用を強要するものでは決してありません。
6か月後に医療機関を受診して頂き(研究に参加している医療機関であれば、先回と異なる医療機関でも構いません)、視診による重症度の再判定(これにより6か月前後での改善の有無を見ます)と、その間にカポジ水痘様発疹症や伝染性膿痂疹などの感染症が起きたかどうかを問診します。
本研究は、研究参加医師たちによる自発的なもので、いかなる企業・団体などからも、資金提供を受けていません。結果は集計して医学雑誌に投稿する予定です。よろしくお願いいたします。
集計担当者
名古屋市中区千代田5-20-6 鶴舞公園クリニック 院長 深谷元継
TEL 052-264-0212
本研究の内容を理解し、臨床情報の提供に同意します。
年 月 日 氏名
(未成年者の場合) 保護者氏名
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以下が計画書です
研究実施計画書
西暦2014 年11 月13 日作成
研究実施計画書番号 1
アトピー性皮膚炎にステロイド外用剤を用いない場合の臨床経過観察研究
研究担当者 深谷元継a) 佐藤美津子b) 佐藤健二c) 木俣肇d) 藤澤重樹e) 堂園晴彦f)吉澤潤g)水口聡子h)山田貴博c)
a) 鶴舞公園クリニック 名古屋市中区千代田5-20-6 TEL 052-264-0212
b) 佐藤小児科 大阪府堺市中区堀上町123 番地 TEL 072-281-0215
c) 阪南中央病院 大阪府松原市南新町3丁目3−28 TEL072-333-2100
d) 木俣肇クリニック 大阪府寝屋川市早子町2-21 早子町オオヨドビル3階 TEL 072-812-1160
e) 藤澤皮膚科 東京都練馬区東大泉1丁目37−14 TEL03-3925-8947
f) 堂園メディカルハウス 鹿児島県鹿児島市上之園町3−1 TEL099-254-1864
g) 吉澤皮膚科 神奈川県横浜市中区石川町1-1 TEL045-662-5005
h) 上尾二ッ宮クリニック 埼玉県上尾市二ッ宮954-1 TEL 048-773-4994
【背景】
アトピー性皮膚炎の治療において、多くの問題点があるにも関わらず、ステロイド外用剤によるいわゆる標準治療が主座を占めるとされている1)。
その一方でアトピー性皮膚炎には自然治癒傾向があることも良く知られた事実である2)。
またステロイド外用剤の副作用を怖れて使用を希望しない患者も多い3)。
2003年と2004年に古江らは、それぞれステロイド外用剤、ステロイド外用剤とプロトピック軟膏併用で治療した患者の、6か月間の前後での効果判定を行い、ある程度の患者がこれら薬物治療によって改善することを示した4) 5)。
しかし、古江らの観察では、ステロイド外用剤をまったく用いずに6か月間の前後で症状を比較したケースは含まれておらず、ステロイドを用いなくても改善したケースがどの程度含まれていたのかが明らかではない。
【目的】
ステロイド外用剤を用いないアトピー性皮膚炎患者が6か月間でどの程度軽快するのかを確認する。
【方法】
古江らと同様の方法、すなわち重症度を、1)最重症(皮疹面積が30%以上)、2)重症((皮疹面積が30-10%)、3)中等症(皮疹面積が10%未満)、4)軽症(乾燥肌、落屑、軽度の紅斑)、5)寛解の5段階評価し、6か月間の前後で比較する。
複数施設による前向きコホート研究であり、平成27年1月1日から6月30日までに受診した患者のうち、本研究に同意を得た患者について行う。サンプル数は、古江の2003年の論文は乳児210人、小児546人、成人515人の計1271人であり、2004年の論文は215人(すべて成人)の患者数であったことを考えて、乳児・小児・成人合計で200人を予定する。
サンプル数が不十分な場合には、エントリー期間を延長する。また、途中からの研究参加医療機関をも受け付ける。
古江らの論文では、6か月間の観察中の、カポジ水痘様発疹症および伝染性軟属腫の発症率も集計されているので、本研究もこれにならい、ステロイド外用剤を使用しない場合のこれらの感染症や副作用の発現率の違いを確認する。
1)アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン作成委員会 日皮会誌:119(8),1515―1534,2009
2)The natural course of early-onset atopic dermatitis in Taiwan: a population-based cohort study. HuaTC1, Hwang CY, Chen YJ, et al. Br J Dermatol. 2014 Jan;170(1):130-5.
3)Why Do Patients with Atopic Dermatitis Refuse to Apply Topical Corticosteroids? Mototsugu Fukaya,Dermatology 2000;201:242–245
4)Clinical dose and adverse effects of topical steroids in daily management of atopic dermatitis. M.Furue , H. Terao , W. Rikihisa , et al. British Journal of Dermatology Volume 148(2003) Issue 1, Pages128 – 13
5)Dosage and Adverse Effects of Topical Tacrolimus and Steroids in Daily Management of AtopicDermatitis M Furue, H Terao, Y Moroi , et al. The Journal of Dermatology Vol. 31: 277–283, 2004
アトピー性皮膚炎におけるステロイド外用剤依存
DrugHealthcPatientSaf.2014Oct18;6:131-138.にTopicalsteroidaddictioninatopicdermatitis(アトピー性皮膚炎におけるステロイド外用剤依存)という表題で、私たち8名の共著論文が掲載されました。
下記サイトから無料でダウンロードできます。
http://www.dovepress.com/articles.php?article_id=18757#
深谷元継(鶴舞公園クリニック),佐藤健二(阪南中央病院皮膚科),佐藤美津子(佐藤小児科),木俣肇(木俣肇クリニック),藤澤重樹(藤澤皮膚科),堂園晴彦(堂園メディカルハウス),吉澤潤(吉澤皮膚科),水口聡子(こうのす共生病院皮膚科)
アメリカ皮膚科学会(AAD)の新ガイドライン[2]には3つの問題があります。そのうちの1番目が、以下の文章です。
「1プロアクティブ療法には隠された意味がある
ガイドラインには「近年、同じ個所に頻回に繰り返し再燃する患者に対して、プロアクティブ療法による維持が提唱されている。・・・これは、そのような個所に週一、二回規則的にステロイドの外用を続けるという方法で、再燃の頻度を抑え、保湿剤単独に移行してから最初の再燃までの時間を長くするというものである」[2]。と書かれています。
いわゆるプロアクティブ療法が紹介されています。これらのプロアクティブ療法の研究[12]-[14]においては、患者の疾患は研究参加前に強いステロイドによってコントロールされました。うまくコントロールされた患者は週1-2回ステロイドを外用するグループ(プロアクティブ療法)と、悪化した時のみステロイドを外用するグループ(アクティブ療法)の二群に分けられ、前者の方が再燃までの期間が長く経済的負担も少なかったです[15]。
しかしながら、プロアクティブ療法の研究には二つの隠された意味があります。(1)研究の対象となった患者は全員、最初に強いステロイド外用剤で良好にコントロールできた患者です。したがって最初の段階でコントロール不良と判定された患者が存在し、そのような患者は研究に含まれていません。(2)プロアクティブ療法に従えば、患者は理論的に永久にステロイド外用剤から離脱できません。湿疹患者は、とくに乳児や小児では、しばしば自然治癒しますが、そのような自然治癒傾向はプロアクティブ療法では想定されていません。
上記の研究においてコントロール不良であった患者の率は10%-20%であり、古江らの研究11におけるコントロール不良群の率に非常に近いです。著者はプロアクティブ療法がステロイド外用剤の休薬期間を設ける投薬方だという意味において、TSAやRBSSの患者を減らす可能性があることは認めます。しかしこの方法は最初にコントロール不良と判定されたTSAやRBSSを既に発症してしまっている患者たちの役に立つものではないという点は認識されなければなりません。」
3番目が以下の文章です。
「3治療不足は必ずしも不適切とは言い切れない
ガイドラインには「ステロイド外用剤の慎重な使用は確かに重要だが、ステロイド忌避の結果としての治療不足の認識もまた重要である。・・・ステロイド外用剤のリスクは、適切な用法と強さの選択を間違えず、不使用の期間をはさむようにすれば、出現は低い。したがって(実際に奏効するよりも)より強いステロイド外用剤が患者によっては考慮される。それはリスクよりも有益性のほうが高いからだ」[2]。と書かれています。
ステロイド恐怖による治療不足がここでは議論されています。このようなステロイド恐怖の患者は実際に存在します。患者の中にはステロイド外用剤を使用さえしなければ湿疹は治ると信じる者もいます。実際、アトピー性皮膚炎と言うのは自然治癒傾向をもった疾患であり、ステロイド外用剤はこの自然治癒過程を阻害しているかもしれないので、間違っているとは言い切れません[17]。
さらに、患者がステロイド外用剤依存に陥っている場合には、「治療不足」抜きには患者の回復は有り得ません。数か月から数年と言った短期の外来診療における経過観察においては、ステロイド外用剤によって「治療不足」の患者を治療することは効果的にみえます。そういう理由から、過去の多くの研究がステロイド外用剤は有用だと結論付けてきました。
しかしながら、さらに長期的な観点からもステロイド外用剤は有益なのでしょうか?数十年前に皮膚科医がステロイド外用剤を処方するようになってから、成人性アトピー性皮膚炎患者は増えているではありませんか?なぜアトピー性皮膚炎患者だけがステロイド外用剤の使用に不満を訴えたり不安を感じたりするのでしょうか?
皮膚科医がこれらの疑問に明確に答えることが出来ない以上、アトピー性皮膚炎患者には、医学的に十分な情報提供を受けた後に、彼ら自身で治療法を選択し決定する合理的な権利があります。ステロイド外用剤は、患者が依存に陥っていない場合に、少なくとも短期的には有用ということです。したがって「治療不足」への過剰な警告は患者の治療法選択の権利を侵すものであり、そのような患者は疾患の治療に真剣に取り組んでいないのではないかという社会の誤解を招くものです。」
皆様にお願いです。上記論文を可能な限り各方面へ多く紹介・リンクしてくださるようにお願いいたします。
ビデオ
「アトピー性皮膚炎におけるステロイド外用剤依存」
ITSANがvideo abstract作ってくれました。
https://www.youtube.com/watch?v=O82WQR1yo0I
英語の字幕が付いています。